「VUメーターの針が目盛りの赤い範囲に入ると波形が歪む?」

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当社では2~8ch の VUメーター・ユニットを製造しています。従来のアナログ入力のほかに AES/EBU 信号を直接入力できるデジタル入力タイプもあります。

VUメーターについて巷でいろいろな都市伝説(?)を耳にすることがあります。「VUメータの針が目盛りの赤い範囲に入ると音が歪む」というのもそのひとつで、先日は専門学校の生徒さんからも質問されました。ということは先生がそう教えている?(笑)


[ VUメーターとは ]
まずは基本的なところから。VU は Volume Unit の略で、VUメーターは音量監視に特化したメーターです。本来の VUメーターは、+4dBm の信号が入力されてから 300msec以内に指針が 0VU の99% に到達すること、その際のオーバー・シュートは1~1.5%以内のこと、など音量を視覚的に捕らえるための細かな規定があります。

また正確な目盛りを刻むため、昔の放送機器で使われていたような高級メーターでは精密減衰器を通した発振器の信号を実際に入れて、その指針の位置に手書きで目盛りを書き込んでいました。視認性+応答速度を調整するために、指針の先端にはハート型の重りが付いていました。

現在のVUメーターは小型化が進み、また特性のバラツキもほとんど無いので印刷した目盛りで十分正確なレベル監視ができます。また反応時間も300msecでは遅いということで、より高速な反応をする製品もあります。

[ 0VUとは ]
さて本題の VU の目盛りですが、では 0VUとはどんなレベルなのでしょう?既に答えが出ていますが、本来の VUメーターは、600Ωの平衡出力(バランス出力)に、3.6kΩの外部抵抗で分路して接続します。このとき出力に +4dBm の信号が出力されていれば、指針が 0VU を示します。つまり VUメーターの目盛りは、+4dBm を 0dB(規準) として、dB の代わりに VU という単位をつけた対数目盛りです。

Image2

 

[ヘッド・マージン ]

0VU(=+4dBm)以上の信号を入れたら歪んでしまったのでは仕事になりません。どんな回路設計をしているんだ、という話になってしまいます。

ここからは今の時代、アナログ・レコーダーの話はかえってわかりにくいので(笑)、デジタル・レコーダーで話を進めましょう。デジタル・レコーディングでは “フル・ビット(=全てのビットが1)” といってこれ以上大きな信号が入らないというレベルがあります。これを一瞬でも越した分は正しいデジタル・データにならないので歪みやノイズになってしまいます。

なので通常は最大レベルでもフル・ビットを越さないように余裕を持ってレコーディング・レベルを決めます。現在では(プロ機器の場合)フル・ビットから 20dB 下がったところを規準レベルとしましょう、ということになっています(例外もあります)。

規準レベルというのはつまり VUメーターの針が 0VU を指すレベルです*。ですから信号レベルが 0VU ということは、その上にまだ 20dB の余裕(ヘッド・マージン)があるわけです。指針が+3VUを越して寝てしまっていても、歪むまでにはまだまだ余裕があるのです。

逆に言えば 0VUを “絶対に超さない” ようなレベル設定はせっかくのダイナミック・レンジを狭く使い、さらにSN比を悪化させることになります。ピーク音量で絶対にフル・ビットにならない、しかしなるべくフル・ビットに近づける。これがダイナミック・レンジを最大限に取ることになります。

ちなみにアナログ・テープ・レコーダーの場合は、メーカーや機種、使うテープによってヘッド・マージンが違っていましたが、おおよそ15dBはあったはずです。またデジタルと違って、オーバー・レベルでもいきなり歪むわけではなく徐々に歪んでいくので、わざと歪み感を生かしたようなレコーディングをする場合もありました。そういう時は当然、レコーダーのVUメーターの指針は振り切れたまま、寝っぱなしです(笑)。

VUメーターは聞こえている音量と指針の動きが一致しているので音量監視には最適なのですが、信号レベルの厳密な監視という点では反応時間が遅すぎます。特に一瞬でもフル・ビットを越してはいけないデジタル・レコーディングの現場では、ピーク・メーターの併用をお薦めします。

* フル・ビットを 0dBとして、+4dBm (= 0VU) の信号が入力された時に -20dB になるようにADコンバーターを含めた回路のレベルを設定してある、という意味です。

[ VU目盛りと%目盛り ]
VU目盛りの下の%目盛りは歪み率だ、と言っているのを聞いて目が点になったことがあります(笑)。どうやら 0VU を越すと歪むという都市伝説(?)はそのあたりの誤解から来ているのかもしれません。

VU

%目盛りは 0VU = 100% となっていますが、では -6VU は何%ですか? 50%になっていませんか? もうおわかりだと思いますが、対数である VU 目盛りの下に、リニアの目盛りを振ってあるだけです。

VUメーターそのものはベル研究所が電話用に開発したものなので、当時は「0VU(100%)を越してはいけない」というような使い方だったかもしれませんし、そのための赤い目盛りだったのかもしれません。しかし現在のようにオーディオ機器に使われている場合は以上の理由で「越えたらすぐに歪む」ことはないということがご理解いただけるでしょう。

[ メーター・アンプ ]
本来のVUメーターはメーター・アンプなどが不要なパッシブ機器です。しかし逆に見ると600Ωラインでしか使えず、今のようなロー出し・ハイ受けが一般的な状況ではそのままでは正確な表示ができません。なので600Ωライン以外で使うには、メーター・アンプでインピーダンス変換して入力してやる必要があります。また600Ωラインで使う場合でも、出力に VUメーターをそのまま挟むとメーターの逆起電力などの影響で歪が増えてしまいます。メーター・アンプでアイソレーションを取ったほうが音質的に有利です。

[ 鉄用、非鉄用 ]
VUメーターの構造は、磁石を囲むようにコイルを巻いたボビンがあり、そこに指針が付いています。コイルに電流を流すとフレミングの法則でボビンが動き、針が振れます。

実はVUメーターには、それを固定するパネルが鉄製か、アルミのような非鉄製かの2種類があり、使い分ける必要があります。磁気を使用しているので、パネルが鉄製だと指針の動きが影響を受けるためです。外観が同じでも『鉄』あるいは『Fe』と表示があったら鉄パネル用、『非鉄』とか『NFe』とあったら非鉄パネル用のメーターです。間違えると指示値が変わってしまいます。