OEP のA187A12Cというトランスを測定してみました
測定条件
測定器 Audio Precision P1-DD
発振器出力インピーダンス : 40Ω平衡
測定器入力インピーダンス : 600Ω平衡
最大入力レベルはデータ・シートに記述がありません。とりあえず 1kHz で測定します。P1-DDの最大出力である +30dBu を入れても、歪率は 0.03%(UN-WDT* 以下同じ) と飽和しません。これは 20kHz 以上まで同じで、こと高域に関しては高性能です。
次に周波数特性を見てみましょう
1kHz/0dBu を基準として、高域は多少のうねりはあるものの、20kHz までほぼフラット、低域は 11Hz で -1.0dB とかなり持ちこたえているように見えますが・・・
さて歪率です。
1kHz/0dBu での歪率は 0.0013% でした。高域は 20kHz で 0.0017% とかなりの好数値です。旧BTS規格のトランスと比べたら隔世の感がありますが、現在のオーディオ・トランスはこのくらいの数値は簡単にたたき出します。
低域ですが、50Hz/0dBu で、すでに 0.1% と悪化しています。信号レベルを +4dBu に上げると 0.2% になりました。+10dBu は業務用機器では普通に扱う信号レベルですが、そこでの歪率は 1% と、実用的ではありません。
A187A12C のデータ・シートの右上のグラフは、 0dBu の信号レベルに対する周波数ごとの歪率を表しています。低域で一気に歪率が悪化(急上昇)しています。つまり 1kHz/0dBu を基準にした時点で、すでに低域は歪っぽくなっているということです。
ちなみに測定レベルを下げてみましょう。基準レベルを -20dBu にすると、50Hz の歪率は 0.03% まで下がります。用途にもよりますが、このレベルなら全周波数帯域に渡ってフラットで低歪率な性能を発揮します。もし基準レベルより +10dB も高い信号(-10dBu)がきても、50Hzの 歪率は 0.03% のままです。
オーディオ・トランスには大小さまざまなサイズのものがありますが、それはほぼコアの大きさで決まっています。コアが小さいほど低域での飽和レベルが低いので、小さいトランスは信号レベルが低い回路向き、ということになります。
結論 : コンシューマ用(基準レベル -20dBu 程度)の機器向けであれば全く問題なく使える。一般家庭のプリ・アンプとメイン・アンプの間のアイソレーションとか、CD/DVDプレーヤーとAVアンプの間のアイソレーションとか、グラウンド・ループのトラブルを解決するにはいいんじゃないでしょうか。ただし +4dBu の世界(業務用)で使うと、低域の歪率で音質に不満が出る可能性がある。
トランスそのものの音質については? それは「好みなのでご自由に」としか言えません。
ところで、せっかく基板作っちゃったんでどこかに使いたいんですけど、スタジオで何かに使えませんかねぇ?クライアント用モニター・テレビの、オーディオ回線のアイソレーションとか・・・(特注でお受けしますよ~)
*UN-WDT : Un-Weighted 測定上のウエイトはかけていません
お断りするまでもないと思いますが、上記の測定値はこの時点での実測値です。いつ誰がどこで測っても常にピッタリとこの値が出るわけではありません。弊社ではこの基板も、OEPのトランスも販売していません。お問い合わせにもお応えできません。悪しからず。
あー、そうだ忘れてた。ちなみに LUNDAHL LL1582 の最大入力レベルはカタログ値で +30dBU/50Hz です。同じようなサイズなのに?と思われるかもしれませんが、LUNDAHLトランス はボビンレスといって、巻線を巻き付けるボビンが無い構造なのでサイズがとても小さいのです。価格差だけのことはある、と思っていただければ幸いです。以上、ちょこっと宣伝でした。